2231(仮) 第三九話

 テーマパークの入り口、メインゲート前まで来ると、激しい戦闘の跡があった。駅の周りに聳え立つホテルや店舗に、巨大な銃弾で抉られた穴がいくつか空いていた。足元には巨大な薬莢も落ちている。

 窓ガラスや外壁の一部が崩落し、瓦礫と化している場所もあった。道幅の狭い旧門前通りで頭上もこんな調子では、ただ走り抜けるだけでも相当怖かったはず。二階の入り口へ直結している通路から、鉄工所の手前に広がる広場が見えた。信号のついた街灯や、丁寧に植えられた背の高い植物、白いポールを組み合わせてできた謎のオブジェが、巨大な機動兵器に押し倒されていた。北へ抜ける道路の真ん中、細い分離帯に植えられた椰子の木も無惨に踏み荒らされ、手前の何本かは薙ぎ倒されている。

 動かなくなった機動兵器の足元に、右腕を破損し、切断面から青白い体液を垂れ流している駿と、それを介抱する桂花さんがいた。僕は、騒ぎを聞きつけて近づいてくる四足歩行の実験動物を、リボルバーで撃ち抜いた。椰子の木に隠れていたもう一体も、しっかり引き付けて撃ち倒した。

「無事か?」

 僕は駿に声を掛けた。彼は、異様な紋様を浮かび上がらせた顔でこちらを見る。右目もいつもの色から変色し、瞳が三つに増えて淡いピンクに発光したまま、周囲を激しく見回していた。どうやら上手く制御ができないらしい。

 駿は荒い呼吸を整え、桂花さんに支えられながらゆっくり立ち上がった。無くなった右腕から溢れる体液を左手で押しとどめながら、「ご覧の有り様だ」と笑いながら言った。声も、若干のノイズが混ざっている。

 駿を支える桂花さんも、彼の体液を浴びた部分が徐々に錆び始めたらしく、顔や服が赤茶色に変わっている。僕の視線に、彼女は「私は何ともない」と言った。小さな切り傷や擦れた跡はあるが、大事はないらしい。

「さ、行くぞ」

 駿は桂花さんの支えを押しやり、少々ふらつきながら一人で歩き始めた。僕がそれを支えようとするが、駿に断られた。

「ここからまだ、奥に行かなきゃいけないんだ。一人で歩くさ」

 彼はバックパックからタオルを取り出すと、口に咥えた。体液が溢れる右腕の付け根、肩を左手で掴み、歯を食いしばってそのまま引きちぎった。脇の接合面を閉じ、体液の流出を止める。

「ほら、何ぼーっとしてんだ。行くぞ」

 彼はタオルをその場に投げ捨て、ついて来ない僕らに言った。先に信号奥の階段を上がる駿を追いかけ、三人揃ってテーマパークのメインゲート前に辿り着いた。外側はグルッと立ち入り禁止の看板と、オレンジのフェンス、防音防塵用の布で中が見えないように覆われている。

 入り口を塞いでいたフェンスと布を押し退け、奥に入る。目の前に、テーマパークのシンボルっぽい地球を模した球体が置かれていた。チケット売り場、入場ゲートはまだ向こうの方らしい。開業していた時の様子は分からないが、ザ・シティに良いように利用されていた割りに、当時の面影は残されているような気がする。

 午後五時を過ぎ、各部のライトアップも始まったようだ。客はほとんどいないだろうに。チケット売り場の前まで行くと、ゲートの左右に人型のロボットが立っていた。チケットのもぎり役か、中からの逃走を監視する役割でも担っているのだろう。彼らは特に何かを求めることもなく、僕らの通行を許可してくれた。

 園内に入ると、マスコットキャラみたいなのは見えないが、近くの売店や通路に、制服を着た人の姿が見えた。どうやら同学年のクラスメートではなく、先輩や後輩のキャストらしい。

 彼らは異様な見た目の駿のことも特に気にすることなく、各々に与えられた役割を演じている。すぐ側で清掃員をやっていたのは、どこかで見覚えがある下級生。声を掛けてやめさせた方がいいんだろうか。真面目に手を動かす様子を見ていた僕に、駿が「やめとけ」と声を掛けてきた。

「まずは、ヤツの顔を拝んでからだ」

 彼は左手で、僕が彼女に伸ばした手も掴んでいた。僕が彼に頷くと、彼は僕の手を離した。ヤツは三流の脚本家、演出家とはいえ、意に反するのはまだ早い。心の中でごめんねと呟き、気持ちを切り替えるべく強引に視線を逸らした。

 真境名がいるとしたらどこか。昼前の映像では、屋外の劇場みたいなところにいた気がする。少なくとも、正面に見えるような建物の多い場所ではなかった。建物の間を抜けて、もっと西の方、テーマパークの奥の方へ進んだ方が良さそうだ。

 園内マップがあれば特定もしやすいのだけど、それっぽい案内板は特に見当たらない。とりあえず、頭上に絶叫マシンのレールっぽいものが見えるところに出た。この辺りもまだ、建物が多い。どうやら、もっともっと奥へいかねばならないようだ。頭上のレールに想像を巡らせながら、園内をどんどん西へ進む。

 ポップコーン売り場や案内スタッフめいたキャストも見えてくる。思い切って、案内のパンフレットがないか訊いてみると、先輩らしき女性は、少々引き攣った笑顔で疲れも滲ませながら、スッとパンフレットを渡してくれた。僕はお礼を言い、彼女から離れて園内図を見た。

 横から駿や桂花さんもそれを覗き込む。どうやら、今いるエリアは大きな池に挟まれた場所らしい。恐竜やサメ映画をテーマにしたエリアがあり、さらにその奥に往年のゲームをテーマにしたエリアと、演劇を楽しむための場所もあるようだ。水族館のイルカショーと似たような形のココが、目的地だろう。

 パンフレットをバックパックに仕舞いながら、そちらに向かって歩き始める。西部劇っぽい場所を抜け、大きな池を迂回する。目的地のエリア名を掲げたゲートをくぐると、すぐに扇型造られた劇場が見えてきた。本来なら水の中に浮かぶ中央のステージと、そこへ向かってすり鉢場に緩く迫り上がっていく形の座席があるはずだが、水は抜かれ、真境名と遊川のための大きなベッドに作り替えられていた。

 僕らのクラスメートはそれを見守る形で、周囲に配置され、水の中のステージと向かい合う境目らしい場所に、僕らの家族は集められていた。彼らは一つのテーブルに集められ、目の前に見える二人の愛を延々と見せつけられていた。

 僕らが近付くと、僕の父と母、桂花さんのお母さんが立ち上がり、僕らを心配そうに出迎えた。駿の家族はいなかった。

「随分遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」

 真境名はベッドの中で身体の向きを変え、僕らと相対した。ベッドの上で胡座をかき、少々怠そうな表情を浮かべている。さっきまで彼と抱き合っていた遊川は、こちらを一目見るなり、怖がって真境名に身を寄せる。彼は遊川の柔らかそうな頭を撫でながら、額にキスをした。

 彼は一瞬こちらを見ると、近くにいたクラスメートに指示を出した。彼らは慌ただしく動き、新たな椅子を三つ持ってきた。家族は少し脇に動き、真境名と向き合う場所を広く開ける。

「暑かっただろう? どうだ、まずは一服」

 真境名が合図すると、クラスメートの間を割って、稲荷さんとテッちゃんとが、ドリンクを持ってやって来た。彼らはテーブルの空いたスペースにドリンクを三つ置く。僕らに再接近した時、二人の手は微かに震えていた。

 用事を終えた彼らは、スッとちょっと離れたところにいるクラスメートたちの元へ行く。その先頭で、嶋田さんはいつも通りに、ややツンとした表情で腕を組み、あさっての方を向いて立っていた。

「良いから、座れよ」

 真境名は胡座をかいたまま、真っ直ぐこちらを睨みつけた。その視線が、僕らの後ろへ向けられると、一番後ろが騒がしくなる。そこだけ空間ができ、足元を見ると、血溜まりが広がっていた。真境名は再び僕らに視線を向けた。僕らは彼の圧に従って、素直に椅子に腰を下ろした。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。